経済は"人"で成り立っている――ロシア経済の将来について

りんラボです。

 

私たちの文明生活を彩ってくれているのは”人"に他ならない。私たちが享受している財とサービスは"人"が生み出しているからだ。

 

最近のロシア経済を眺めていると、そんな当たり前のことを思い知らされます。

 

ロシアは今、深刻な労働力不足に直面しています。

 

出兵、軍需産業への吸収、国外脱出、そして少子化。資源大国ロシアの経済は、働き手がいないという、それだけの理由で成立しなくなってきているのです。

 

実際、ロイター通信は「今朝は7番のバスが走っていなかった」という、ウラル連邦管区の町に住むロシア人の投稿を紹介しています。

 

ロシアは静かな国になる――それが私の直観です。

 

ロシア人は工場でドローンを組み立てることに、より多くの魅力を感じています。政府から資金が入るので、軍需企業は労働者に高い賃金を支払うことができるのです。

 

あるいは、ロシアのある州では、軍に志願すれば一般的な月収の25倍もの一時金が支給されるとのことです。その結果、町から男性が消えているといいます。

 

人材が不足し、賃金が上昇すれば、ロシア人はより多くのお金を得るはずですが、実際は高いインフレ率と供給不足で生活は困窮・空疎化するでしょう。

 

それは、現在の軍需偏重の短期的構造が解消されたとしても、少子化のため、長期的にロシア経済に残される問題のはずです。

 

すると、労働のリターンを保障できない社会・経済に生きることの困難を、ロシア経済の将来は示唆しているように思われます。

 

すなわち、労働の価値が上がっているのに、ロシア人は働いても報われないのです。それは非常な理不尽ではないでしょうか。

 

輸入にせよ、労働力の流入の問題にせよ、ロシアが一つの閉じた経済として自立していくことはできないでしょう。明らかに他の国々との相互交通が必要になります。

 

平和とは、国際経済が問題なく回っている状態をいうと、シンプルに結論しても許されると私は思っています。人間の理想はそんな簡単なことで満たされるのです。

 

今、戦争や分断が生み出そうとしているのは、一つの寂しい世界のようです。

 

アングル:ロシア国内で深刻化する人手不足、軍や防衛産業が働き手吸収 | ロイター

ロシア出生率は日本並み1.4、国家の将来に「大惨事」 大統領府 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

ウクライナ戦争は第三次世界大戦?――エマニュエル・トッドの論理とは

「第三次世界大戦はもう始まっている」

 

――そう述べるのは、フランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド(1951年~)です。

 

トッドは『最後の転落』(1976年)でソ連崩壊を、『帝国以後』(2002年)で米国発の金融危機を、『文明の接近』(2007年)でアラブの春を予言。最近では、トランプの勝利や、イギリスのEU離脱などを的中させています。

 

以下、トッドの「第三次世界大戦はもう始まっている」(文藝春秋)に基づいて、彼の主張をご紹介します。

 

責任はアメリカとNATOにある

トッドは米国の国際政治学者ミアシャイマーの説に大筋同意する形で、ウクライナ戦争の責任は、プーチンやロシアではなく、米国とNATOにあると主張しています。

 

ロシアは「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」と明確に警告を発してきていました。それにも関わらず、米国とNATOがこれを無視したと言うのです。

 

もちろん、ウクライナは正式なNATO加盟国ではありません。

 

しかし、トッドによれば、ウクライナ侵攻の段階で、米英はウクライナを武装し、軍事顧問団を派遣して、同国を「"事実上"の加盟国」としていたのです。

 

NATOの東方への拡大

ここで、見逃せない事実があります。

 

それは、ドイツ統一が決まった1990年の時点では、米国は「NATOは東方に拡大しない」という約束を、ソ連に対して保証していたということです。

 

それに反して、NATOは、1999年にポーランド、ハンガリー、チェコを、2004年にルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニアを加盟国に迎え、東方に拡大してきました。

 

その上で、2008年のNATO首脳会議で、「ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言されました。

 

これに対して、プーチンは即座に記者会見を開き、ジョージアとウクライナのNATO入りは絶対に許さないと警告したのでした。

 

すでに第三次世界大戦に突入

ポーランド出身の学者ブレジンスキーの論では、ウクライナなしではロシアは帝国になれません。

 

この論から、米国の戦略としては、ロシアが帝国として米国に対抗できないようにするために、ウクライナをロシアから引き離しておくべきだという結論が導き出されます。

 

実際、米国は英国と共にウクライナを武装化し、軍事顧問団を派遣して、同国を"事実上"のNATO加盟国としました。

 

米国人は自国民の死者は出したくないが、実際はウクライナを武装させることで、ロシアと戦っているではないか――トッドの論理はこのようなものです。

 

ウクライナは米国の「死活問題」

前述のミアシャイマーは「ロシアはアメリカやNATOよりも決然たる態度でこの戦争に臨むので、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と結論しています。

 

一方、トッドはウクライナ戦争は米国にとって「遠い問題」ではなく、米国主導の国際秩序に直接挑みかかるもので、「死活問題」となるものだと指摘します。

 

そのため、米国はこの戦争にミアシャイマーの想像よりも深くのめり込む可能性があるとトッドは述べています。

 

一方、りんラボは?

トッドによれば、西側メディアには、「プーチンは、かつてのソ連やロシア帝国の復活を目論んでいて、東欧全体を支配しようとしている。ウクライナで終わりではない。その後は、ポーランドやバルト三国に侵攻する」という危機感があります。

 

それもあって、ウクライナ戦争に見られる、欧米の代理戦争という側面は確かに否定できないでしょう。

 

実際に、現在では、英米などが供与した長距離ミサイルで、ウクライナはロシア領内を攻撃しており、トッドはこれを「第三次世界大戦」と表現する立場です

 

一方、りんラボでは、実際の"欧州開戦"の瞬間に特別な意味を与えるため、現状では「第三次世界大戦」はまだ始まっていないと考えます。

 

トッドは米国とロシアとの対決という側面を注視しているようですが、りんラボはトランプ政権下の米国抜きでの、欧州諸国の決意に注目します。

 

確かに、NATO加盟国では最近、防衛費の目標をGDP比2%から5%に増大することが同意されたり、フランスの核抑止力の拡張が議論されたり、新動向が目立ちます。

 

ただ、現状では欧州諸国に、断固としてロシアとの直接対決を戦い抜くという覚悟が定まっているとは言えないでしょう。

 

可能性としては、ロシアのNATO加盟国攻撃を目の前にして、欧州諸国がウクライナから手を引き始めるというシナリオも十分想像できます。

 

すると、ウクライナ戦争の延長線上に、欧州開戦を自動的に置くことはできないわけです。

 

そう考えるならば、「ウクライナ戦争は欧米の代理戦争とは言えるが、第三次世界大戦ではない」とする方が自然だと、りんラボは結論します。

プーチンがソ連・ロシア帝国を復活させる?

りんです。

 

アンジェラ・ステント博士(ジョージタウン大学名誉教授)が断言するように、「プーチン氏は自分が皇帝の後継者だと信じている」のかもしれません。

 

プーチン氏は「ロシア皇帝の後継者?」今後どう出てくる? | NHK

 

ウクライナへの侵攻が始まると、プーチンは次のように侵略を正当化しました。

 

ピョートル大帝は21年間にわたって大北方戦争を展開した。表向きは、ロシアから領土を奪ったスウェーデンとの戦争だった……彼は奪ったのではない、取り返したのだ。

 

プーチン大統領が思い描く結末は「帝国の復興」(1/2) - CNN.co.jp

 

クレムリンにはピョートル大帝とエカチェリーナ2世の肖像画が飾ってあるそうです。いずれも、ロシア帝国の領土拡大を成し遂げた皇帝です。

 

プーチンに受け継がれた「防衛的拡張主義」について、示唆に富む対比があります。

 

例えば、エカチェリーナ2世は「成長をやめたものは腐り始める。民の安全を確保するため、国境線は遠くへと張り出さなければならない」という言葉を残しています。

 

一方、ウクライナ戦争以前のことですが、ロシア地理協会主催の表彰式で、プーチンは地理の得意な男の子に「ロシアの国境には果てがないんだよ」と"冗談"を言っています。

 

当時、この発言はクリミア併合後の対外方針に結び付けられました。

 

全員にはっきりさせておきたい。我が国は今後も積極的にロシア人の、在外同胞の権利を守り続ける。政治から経済、国際人道法から自衛権に至るまで、可能なあらゆる方法を使って。

 

プーチン氏「ロシア国境に果てはない」 - BBCニュース

 

ここで、ソ連に関して言えば、プーチンはソ連崩壊を、20世紀における「最大の地政学的悲劇」と表現したことがあります。

 

ゴルバチョフ氏、冷戦終結に貢献も西側への歩み寄りは誤り=プーチン政権 | ロイター

 

しかし、プーチンは「ソ連はもう存在しない。過去を取り戻すことはできない。ロシアはもはやソ連を必要としていない。われわれはソ連を目指していない」とも主張しています。

 

ちなみに、ロシア帝国の復活についても、「ロシアは帝国を復活させようとしているのではないかとの臆測が出てくると予想されるが、全く現実に合っていない」と否定してはいます。

 

ロシアはソ連の再興目指していない プーチン氏 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

「ロシア帝国復活」の考えない プーチン大統領 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News