映画『E.T.』
スピルバーグ監督の映画『E.T.』(1982年)は、もちろん空想の産物だ。
森で地球の植物を採取していたところ、仲間とはぐれてしまった地球外生命体(E.T.)と少年エリオット。
E.T.はテレパシーや超能力のようなものを扱う一方、身体能力や発声はひどく覚束ない。
しかし、彼は仲間の宇宙船と交信するために、そこらの部品を寄せ集めてレーダーを自作しているから、基本的な科学リテラシーは人間の平均以上だ。
友情。出会いと別れ。ほんの少しシュールな笑い。
間違いなく僕たちの胸をうつ名作だが、本作が全体として空想であることは疑い得ない。
空想とは何か?
だが、一体、空想とはそもそも何だ?
すなわち、その空想を構成する部分に注目した時、それら諸部分は案外、現実的に出来上がってはいるではないか?
例えば、宇宙船。これは、アポロ計画で有人月面着陸を成功させて以後のことだから、地球上に電話や車があるのと同じくらい自然だ。
地球外生命体やテレパシーは未確認の事象だが、全くスピルバーグ監督だけの空想というわけではない。
森で植物を採取する地球外生命体という像にしても、比較的平和的で豊かな人類の探査活動を投影したものと考えれば、不思議ではないだろう。
空想の条件
空想を全く無のキャンバスから生み出すことは困難だ。
E.T.がそこらの部品からレーダーを組み立てたように、僕たちの空想にも、何か部品が必要なのだ。
逆説的だが、空想の部品は現実的なもの、実現可能性の高いものであることが望ましい。
空想は創造の準備だ。
だが、上手に空想するためには、現在の科学技術、実現可能性の高い近未来の技術、共有することの可能なアイデアに、僕たちはアンテナを張って、少なからずそれらを知っておかねばならない。
アルテミス2:再び月へ
日本時間4月2日午前。
米フロリダ州のケネディ宇宙センターから、月周回に臨む4人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船オリオンが打ち上げられた。
先行するアルテミス1(2022年)では、すでに無人での月周回を成功させていた。
アルテミス2では有人月面着陸は行わない。テスト段階に位置づけられるミッションだ。
今後予定されているアルテミス3では、オリオンと着陸装置のドッキング実験を、アルテミス4ではいよいよ、有人での月南極面への着陸を目指すという。
具体的には、アルテミス3は2027年、アルテミス4は2028年に予定されている。
それ以後、月面着陸は繰り返され、月表面での基地建設が進んでいく見込みだ。
半世紀ぶりの有人月探査へ NASAが4人搭乗の宇宙船打ち上げ | 毎日新聞
アルテミス計画と水
月には水がある――そんな常識も、実はここ十年で明らかになってきたことだ。
月の両極には絶えず太陽光が当たらない場所、すなわち永久影がある。永久影には水が氷の状態で蒸発を免れている。
さらに、太陽光のあたる月表面でも、ガラスや鉱物の中に水分子が閉じ込められているらしいことが確認されている。
月の水を利用すること。
これは、月を宇宙探査の第二拠点とし、さしあたり火星への有人着陸を目指す過程において、決定的に重要だ。
月面上で水を確保できれば、水は酸素と水素に分解され、ロケットエンジンの推進力として利用することができる。
「月に水がある証拠」は、10年前のデータにあった──新事実を“発掘”した研究チームの挑戦 | WIRED.jp
月の水、太陽光が当たる部分でも確認=NASA - BBCニュース
月の位置付け
アルテミス計画における、月の開発・探査へのモチベーションには各種多様が混在している。
①まず、宇宙の謎を明らかにしたいという好奇心。②月形成の秘密を明らかにしたいという好奇心もある。
③月を火星などの探査のための中継基地にする思惑は、アルテミス計画の中核にあるミッションだ。
更に、④水、レアアース、ヘリウム3などの資源を確保したいとの思惑や、⑤アメリカが先か、中国が先か、という宇宙開発競争の側面にまで触れれば、宇宙開発・探査の営みが必ずしも平和的・協力的なものではないことが明らかとなる。
新しい火星探査計画
唐突だが、アルテミス計画の一環にあった月周回基地ゲートウェイの建設が一時凍結された。
今後は、月面基地の建設に資金を集中的に投下していく。
同じ発表の中で、更に注目されるのは、2028年までに、原子力推進システムを搭載した無人宇宙船(SR-1フリーダム)を火星に送り、ヘリコプター型の探査機(スカイフォール)を火星に届けるという計画だ。
原子炉によって電力を得る技術は、その後月面にも応用されるという。
月軌道ステーション中止、核推進宇宙船の新規開発など NASAが諸計画を大幅改定 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
火星の面白い話
火星に氷があることは以前から知られていた。
だが、近年では更に進んで、火星の氷の表面の下に、湖レベルの水のかたまりが存在していることが指摘され始めた。
月の水に関しては、もっぱら燃料への転換という点でしか注目されていない。
一方で、火星や木星の衛星エウロパ、太陽系外惑星K2-18bに存在する水は、地球外生命体の証拠になるかもしれないとして注目される。
火星で初めて液体の水を確認、地下に「湖」か - BBCニュース
地球外生命体
2025年4月、天文学者は地球外生命体の可能性の最も有力な証拠を発表した。
K2-18bは地球から124光年の距離にある太陽系外惑星だ。
今回、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、ジメチルスルフィドとジメチルジスルフィドという2種類の化学物質が同惑星の大気中に存在することを確認した。
これらの物質は、地球では主に植物プランクトンなどの微小な海洋藻類によってのみ生成されるという。
ウェッブ望遠鏡、最有望の「生命の兆候」検出 英米研究チーム 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
ブレークスルー・スターショット計画
僕たちは更にSF色の強い探査計画も持っている。
ブレークスルー・スターショット計画がそれだ。
つまめるほどの小さな探査機に正方形の帆を付けて、地上からレーザーを照射する。それによって、宇宙ヨットは光速の20%の速度を得る。
行き先のケンタウルス座α星は太陽のお隣の恒星で、約4.3光年離れている。
そのため、既存の技術では到底到達できないが、光速の20%であれば、約20年で到達可能になるから驚きだ。
光速の5分の1、史上最速の宇宙ヨットで恒星へ - 日本経済新聞
宇宙の保護者
宇宙開発・探査の目的が実利的なものに過度に傾いてしまっているとすれば、僕たちは宇宙における「掘削者」にしかなりえない。
例えば、月では、水、レアアース、ヘリウム3を掘削して、売買するのだ。それが宇宙進出の本筋となる。
一方で、有人での月や火星への着陸にむしろ先立って、エウロパやK2-18bにおいて生命の存在が確認されたとすれば、どうだろうか?
その時、人類はとてつもない感動に包まれると共に、宇宙にたくさんいる生命への責任をも同時に負っていることを理解するだろう。
E.T.の植物採取がいかにも平和的で豊かな探査活動に見えたのも決して偶然ではなかったのだ。
宇宙リテラシ―
宇宙の生命に対する愛、というのは未だに空想の域に止まっている。
だが、僕の想像では、愛を知らないものに宇宙開発・探査活動の前線は務まらなくなってくるだろう。
これほどの高い技術を持ちながら、人類が「掘削者」に止まるのだとすれば、僕は正直に恥ずかしい。
実際に月や火星に旅行に行くかどうかは置いておくが、これからの時代では、僕たちはみな宇宙飛行士だ。
どうせなら、愛に溢れた温かい胸で、愛おしき宇宙を旅したいではないか。
その温かい胸と知識とが融合したものが、僕の考える「宇宙リテラシ―」だ。