SATOMAROOM

2050年倶楽部

【レビュー】榎本博明『〈自分らしさ〉って何だろう ――自分と向き合う心理学』

今回は、心理学者の榎本博明さんの著書『〈自分らしさ〉って何だろう ――自分と向き合う心理学』(ちくまプリマー新書)のレビューです。

 

この記事のレビューは僕の個人的見解に基づいていることをご了承下さい。

 

レビュー

あるとき本を読んでいて、「これがアイデンティティ拡散っていう症状なんだ」とわかった。まわりを見回すと、同じくアイデンティティ拡散状態の友だちだらけで、「自分らしさ」に行き詰まるのは特別なことではないんだと気づいて少し気持ちが楽になった。

 

それから、「自分らしさ」をめぐる問いが著者の研究テーマとなった。大学は一旦理系に進んだものの、心理学に惹かれて文系に移った。

 

著者にとって、「自分らしさ」についての探求は研究でもあったし、生きることの実践でもあったという。

 

率直に告白することには抵抗も恥ずかしさもあるが、僕は30代前半になったのにも関わらず、未だに大人になりきれていないモラトリアム真っ盛りの典型的人間だ。

 

そんな迷える子羊に本書が与えた教訓は、アイデンティティを確立するということは、最終的には、自己を理解し受容することに行き着く、という視点だった。

 

著者がはっきりそう言っているわけではない。本書の内容と僕自身の経験から、そのような教訓を得たのだ。

 

青年期におけるアイデンティティの葛藤は人間の成長過程における必然でもあり、現代的な特質を備えた新しい問題でもあると言える。

 

アイデンティティの葛藤が一面で人間心理の構造的な必然であるのは、以下のような事情に由来している。

 

「自分はこれでいいんだろうか」という思いが浮かんでくるとき、僕たちの自己は主体と客体に分裂している。「見る自分」と「見られる自分」。この両極に自己が引き裂かれていくのが思春期の心の発達ということができる。

 

すなわち、僕たちはある時期から、当たり前のように自分自身を観察するようになり、それは同時に(自分自身に)見られている自己になるということでもある。

 

そこに、観察主体としての僕たちがそれぞれ抱いている願望の問題が関係してくる。

 

ただ何となく生きてきたのが児童期だとすると、青年期になると「こうありたい自分」というものを意識するようになる。それを「理想自己」という。現実の自分を「現実自己」という。

 

著者の周りにアイデンティティに葛藤する友だちが溢れていたのも、僕が未だにモラトリアムからの脱出方法を模索しているのも、以上のような心理上の構造があるからだ。

 

だが、自分で言うのも不名誉なことだが、20代も過ぎ30代にもなって、未だ大人になりきれないというのも、何だか妙な感じがする。

 

ここで、モラトリアムという言葉はエリクソンという心理学者が用いたものだが、それは青年期の主要な特質として理解されている。

 

つまり、青年期とは、大人になるための準備期間であり、自分らしく生きるというのはどうすることなのか、自分はこの社会で何をすべきなのかと自分自身に問いかけながら、さまざまな役割を試してみたり、傾倒する価値観に基づいて行動したりと、試行錯誤の時期を過ごすことになる。

 

青年期がモラトリアムであるのは普通だ。

 

一方で、僕たちがその時期に長く止まりがちであり、なかなか抜け出せずにいることには、いくつか理由が考えられるとしなければならない。

 

例えば、現代では目指すべき大人の像を持ちにくいこと、この仕事をしていれば安心という正解がないことなどだ。

 

このように、自分を定めることが困難な時代的要因があることは否定できないと思われる。

 

しかし、僕は結局、結論としては著者が以下のように指摘する通りかと感じた。

 

現代的なモラトリアムは、アイデンティティ確立のための通過点として機能していない。むしろ若者たちは、そこに居座ろうとする。

 

僕たちはアイデンティティの葛藤に悩みはするが、実は悩んでるだけで、それを解決するための実際の努力については、あまり考えていないのかもしれない。

 

では、どうすればいいのか?

 

この問題は僕自身の問いであって、著者がはっきり示しているわけではないが、個人的には、「モラトリアムは終わらせようと思わなければ終わらない」と結論した。

 

それは個人的な感想に過ぎないので置いておくが、著者は本書の中で、アイデンティティ確立のための手段として、「自己物語」という視点の導入を提案している。

 

自分の過去を語ることで、自分を自分で見直し、また他者の視点も得られ、そこで納得された物語がアイデンティティとして受容される、ということだ。

 

さて、僕はこのレビューの中で、著者の視点の全てを紹介したわけではないことを、念のため断っておく。

 

本書はアイデンティティの葛藤について、構造的な理解を与えてくれると同時に、その解決手段の一例を提示してくれるものだった。

 

参考図書:

榎本博明『〈自分らしさ〉って何だろう ――自分と向き合う心理学』(ちくまプリマー新書)